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東京家庭裁判所 昭和52年(家)6916号 審判 1977年11月11日

申立人 森田加代子(仮名)

相手方 松野利夫(仮名) 外一名

事件本人 松野真紀(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

一  本件申立の趣旨は「事件本人松野真紀の親権者を相手方両名から申立人に変更する」というものである。

二  申立の実情を要約すると、次のとおりである。

申立人は、昭和四九年一月一五日、相手方松野利夫(以下単に相手方利夫という。)と裁判上の離婚をなし、その際、右両名の間に、昭和三九年八月一八日出生した事件本人松野真紀の親権者については、これを相手方利夫とすることとされた。その後、相手方利夫は、昭和五二年八月一〇日、相手方松野(旧姓村井)秋子(以下単に相手方秋子という。)と婚姻したが、なお、相手方利夫には事件本人のほか、白井洋子との間に出生した幸子(昭和三四年三月九日生)があり、また、相手方秋子には上田英一郎との間に出生した英二(昭和三八年一二月五日生)、秀夫(昭和四四年四月四日生)があつて、右婚姻後、相手方利夫は、昭和五二年八月一二日に、親権者である相手方秋子を承諾者として右英二、秀夫の両名と、相手方秋子は、同月一九日に、親権者である相手方利夫を承諾者として事件本人、幸子の両名と、それぞれ養子縁組をなした。しかしながら、相手方利夫、同秋子両名の主宰する家庭は、右のようにそれぞれ親を異にする子供らが共に生活し、その環境が利害の相反する複雑なものであつて、しかも、相手方両名はいずれも仕事を有し、その関係から子供らに対し十分な監護・調整をなすことができず、そのため、事件本人は右家庭を嫌つて、実母である申立人の許に来て、現在、申立人と肩書住居で同居をし、今後ともその継続を希望するに至つているが、申立人側の事情としても、事件本人の養育監護を十分なしうる態勢にあるから、事件本人の福祉のため、親権者を実母の申立人に変更する旨の審判を得べく、本件申立に及んだ、というものである。

三  そこで、一件記録によれば、本件申立の実情として要約したように、申立人と相手方利夫とは、昭和三九年八月五日婚姻したが、昭和四九年一月一五日裁判上の離婚をなし、その際、双方の間に生まれた長女の事件本人である松野真紀の親権者を相手方利夫と定められたこと、その後、相手方利夫は、昭和五二年八月一〇日、相手方秋子と婚姻するとともに、同月一九日、事件本人の代諾権者として、相手方秋子との間に養子縁組をなしたことが認められる。

四  ところで、前記事実関係のように、子が、実父と、これとすでに婚姻した養母との共同親権に服するに至つた場合において、本件のような親権者変更申立の適否について判断する。

申立代理人が、申立の根拠として指摘するところの民法八一九条六項には、家庭裁判所が、子の利益のため必要あると認めるときは、親権者を他の一方に変更することができる旨規定しているが、これは、もともと単独親権者となるべき者を定める同条五項の規定を受けており、従つて同条一項、三項、四項等の規定により定められた単独親権者の変更につき規定したものであつて、その支言上、変更請求の対象となる親権が引き続き単独で行使されている場合を指すものであり、また、子の利益を第一義とする現行民法の趣旨に鑑み、父母の共同親権(婚姻中の実父母または養父母だけを意味するものではなく、実親と養親が婚姻中である場合も含む)が自然的形態として原則とされているところ、これの変更を、離婚その他の事情によつて、便宜上父母の一方を単独親権者と定めた例外的場合の親権者変更手続によらしめることはできないと解すべきである。

そうだとすれば、本件のように、子の実父と養母とが共同親権者となり、もはや実父の単独行使 (親権)の状態になくなつた場合には、前記の民法八一九条六項に基づいて、子の親族が家庭裁判所に親権者の変更を請求することはできないものと解するのを相当とする。なお、他に本件申立を根拠づけるべき規定も存しない。

よつて、本件申立は、その内容について判断するまでもなく、不適法として却下すべきものとして、主文のとおり審判する。

(家事審判官 野口頼夫)

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